1

ギルドの受付。

エルマが、二人を見ていた。

「……ちょっと聞いていい? あなたたち、大丈夫?」

リンが振り返った。

「何が?」

「いや、その——」

エルマは言葉を選んだ。

「最近、ずっと一緒だなって。朝も昼も夜も。別々に来たこと、一度もないし」

「それが何か?」

「いや、別に問題じゃないんだけど——」

エルマは、ミオを見た。ミオはリンの裾を掴んで、きょろきょろしている。リンの後ろに隠れるように。

「ミオちゃん、リンさんがいないと大丈夫?」

ミオが首をかしげた。

「大丈夫じゃない。リンがいないと、何すればいいかわかんない」

「……そう」

エルマは、リンを見た。

「リンさんは? ミオちゃんがいないと——」

「落ち着かないわね」

リンは、あっさり認めた。

「だから何?」

「いや——私が余計なお世話なのはわかってるけど」

エルマは、小さく息を吐いた。

「共依存って、こういうことなのかなって。——ごめん、気にしないで」

「気にしてないわ」

リンはミオの手を取って、その場を離れた。

エルマは、二人の背中を見送った。

「いつか破綻するって、みんな言ってる……」

誰にも聞こえない声で、呟いた。


2

酒場。

カインが声をかけてきた。

「おい、リン。ちょっと話せるか」

「忙しいわ」

「頼むよ。5分だけ」

リンはため息をついた。

「……5分だけ」

カインは、向かいの席に座った。ミオはリンの横に座っている。リンの腕を掴んで、離さない。

「単刀直入に言う。お前ら、やばいぞ」

「知ってる」

「知ってて続けてんのか」

「ええ」

カインは、頭をかいた。

「俺はお前らのことが心配で言ってんだ。チームってのはな、誰か一人が欠けても回るようにするもんだ」

「知ってる」

「お前らは逆だ。一人でも欠けたら終わる。そんなの危険すぎる」

「知ってる」

「知ってて——」

「やめられないの」

リンは、カインの目を見た。

「わかってる。危険だって。異常だって。でも、やめられない」

「……」

「ミオがいないと、私は何もできない。ミオも、私がいないと何もできない。——それが、現実」

カインは、黙った。

ミオが口を開いた。

「カインさん、心配してくれてありがとう。でも、ミオ、リンと離れたくない」

「……」

「離れたら、ミオ、壊れちゃうから」

カインは、立ち上がった。

「——まあ、俺に言われたくねえよな」

そう言って、去っていった。

リンはミオの手を握った。

「……ごめんね。嫌な思いさせて」

「嫌じゃない。リンがいるから」

「そう」

二人は、酒場を出た。


3

医務室。

ミオの傷の経過を診てもらいに来た。

ドクが包帯を外しながら、言った。

「傷は塞がってきてる。あと数日で完治だな」

「ありがとうございます」

「——で、聞きたいんだが」

ドクは、リンを見た。

「お前ら、このままでいいと思ってるのか」

「どういう意味ですか」

「依存症ってのはな、自覚した時には手遅れなんだ」

「……」

「お前らは自覚してる。わかってて続けてる。——それが一番たちが悪い」

リンは何も言わなかった。

「薬で治せる依存症じゃない。だから俺には何もできん」

ドクは、ため息をついた。

「離れた方がいい、とは言わん。でも、覚悟はしておけ」

「覚悟?」

「お前らの関係は、どこかで必ず代償を求めてくる。——もう払い始めてるだろ」

リンの左手が、無意識に右腕を掴んでいた。

「払い始めてるって——」

「この前の戦闘。ミオが大怪我した。お前は動けなかった。——それが代償だ」

「……」

「次はもっと大きな代償を払うことになる。それでもいいなら、続けろ」

ドクは、包帯を巻き直した。

「はい、終わり。帰っていいぞ」

リンは立ち上がった。ミオが横に立つ。

「ドク」

「何だ」

「覚悟なら、とっくにしています」

「……そうか」

「私が壊れても、ミオが壊れても——それでも、離れられない。離れたくない」

ドクは、何も言わなかった。

二人は、医務室を出た。


4

夜。

宿の部屋。

二人は、ベッドに座っていた。

「リン」

「何」

「みんな、ミオたちのこと心配してくれてるね」

「……そうね」

「でも、ミオ、リンと離れたくない」

「——私も」

リンはミオの手を取った。

「わかってる。異常だって。危険だって。みんなが心配してくれてるのも、わかってる」

「うん」

「でも、やめられない」

「うん」

「——それでいいの?」

ミオは首をかしげた。

「いいとか悪いとか、わかんない。でも、リンがいないと、ミオ、生きていけない」

「……」

「だから、一緒にいる。それだけ」

リンは、深く息を吐いた。

「——そうね。それだけ」

ミオがリンに寄りかかってきた。

「リン、あったかい」

「……あなたの方があったかいわよ」

「えへへ」

ミオが目を閉じた。リンの肩に頭を乗せて。

リンは、ミオの髪を撫でた。

——やばい。わかってる。

でも、この温もりを手放せない。

みんなが心配してくれている。わかってる。

でも——

「リン」

「何」

「ミオ、リンが好き」

「……知ってる」

「リンは?」

「——うるさい。寝なさい」

「えへへ」

ミオの呼吸が、すぐに穏やかになった。眠っている。

リンは、ミオの寝顔を見た。

「——私も」

誰にも聞こえない声で、呟いた。


*第09話 了*