1

ギルドマスターの執務室。

ヴェルナーが、報告書を読んでいた。

「中層10階で上位種2体を撃破。大したもんだ」

リンは無表情で立っていた。ミオは横で、リンの裾を掴んでいる。

「ミオのランクをCに上げる。——お前も、正式にBランク復帰だ」

「……ありがとうございます」

「3ヶ月で浅層からCランクまで。普通じゃない」

ヴェルナーは、二人を見た。

「——お前ら、このまま続けるつもりか」

「はい」

「周りが何を言っても?」

「はい」

ヴェルナーは、書類を置いた。

「俺は止めん。結果を出してる限り、何も言わん」

「——」

「だが、限度はある。お前たちは超えかけてる」

リンの目が、細くなった。

「超えたら、どうなりますか」

「知らん。誰も知らん。——超えた奴がいないからな」

ヴェルナーは立ち上がった。

「やめるか、続けるか。決めるのはお前たちだ」

「——決めています」

「そうか」

ヴェルナーは、二人の顔を見た。

「……まあ、予想以上だな。この組み合わせは」

そう言って、背を向けた。

「下がっていい」

リンは頷いて、執務室を出た。ミオがついてくる。


2

屋上。

ギルドの屋上は、誰もいなかった。風が吹いている。夕日が沈みかけている。

リンは手すりにもたれて、街を見下ろしていた。

ミオが横に立つ。

「リン、Bランクだって」

「そうね」

「すごい」

「すごくないわ。——あなたがいなかったら、無理だった」

「ミオも、リンがいなかったら無理だった」

「——そうね」

風が吹く。リンの黒髪が、ミオの銀髪が、揺れる。

「ミオ」

「うん」

「私たち、異常なのかな」

「いじょう?」

「普通じゃない。みんなが言ってる。共依存だって。やばいって。離れた方がいいって」

「……」

「私も、わかってる。これは普通じゃない。健全じゃない。いつか壊れるかもしれない」

リンはミオを見た。

「それでも——一緒にいたい?」

ミオは首をかしげた。

「リンは、一緒にいたくない?」

「いたいわよ」

「じゃあ、一緒にいればいい」

「——」

「ミオ、むずかしいことわかんない。でも、リンと一緒にいると、あったかい。安心する。生きてるって思う」

ミオはリンの手を取った。

「それって、悪いこと?」

「……わからない」

「じゃあ、わかんなくていい」

ミオが笑った。

「ミオ、リンがいればいい。リンも、ミオがいればいい。それでいいじゃん」

「——」

リンは、何も言えなかった。

単純すぎる。馬鹿みたいに単純。

でも——

それでいいのかもしれない。


3

夜。

二人は、いつものように同じベッドにいた。

「リン」

「何」

「ミオ、リンに会えてよかった」

「……私も」

「孤児院出てから、ずっと何もわかんなかった。何すればいいかわかんなかった。生きてる意味もわかんなかった」

「……」

「でも、リンに会って、わかった。リンのために生きればいい。リンを守ればいい。——それだけで、生きてる意味がある」

リンは天井を見つめた。

「私も……同じかもしれない」

「同じ?」

「3年間、何のために生きてるかわからなかった。過去に縛られて、何も決められなくて。——でも、あなたに会って、変わった」

「変わった?」

「あなたを守りたいって思った。あなたのためなら、また動けるかもしれないって思った。——それだけで、生きてる意味がある気がした」

ミオがリンに抱きついてきた。

「リン、おんなじだね」

「……そうね」

「ミオ、嬉しい」

「——私も」

リンはミオの背中に手を回した。

二人で一人。

異常かもしれない。危険かもしれない。いつか壊れるかもしれない。

でも——

これでいい。

今は、これでいい。


4

翌朝。

リンは、ミオより先に目が覚めた。

ミオが、リンに抱きついたまま眠っている。銀髪が顔にかかっている。穏やかな寝息。

リンは、その髪をそっと払った。

「……」

この子がいないと、私は壊れる。

この子も、私がいないと壊れる。

それは——異常。

でも——

「これでいい」

リンは、小さく呟いた。

ミオが目を覚ました。

「——ん……リン?」

「おはよう」

「おはよ……リン、何か言った?」

「別に」

「嘘。何か言ってた」

「——これでいい、って」

ミオが笑った。

「うん。これでいい」

「——そうね」

リンも、笑った。

窓から、朝日が差し込んでいた。

二人の影が、一つに重なっていた。


*第10話 了*

*第1部 完*