1
1ヶ月が経った。
リンとミオのペアは、中層を安定して攻略できるようになっていた。
「依頼、完了ですね。お疲れ様です」
エルマが報酬を渡しながら、二人を見た。
リンは無表情。ミオはリンの裾を掴んで、きょろきょろしている。
「最近、よく深層に近いところまで行かれてますね。……お気をつけて」
「ありがとう」
リンが短く答える。
「あの……別々に来たこと、一度もないですよね」
エルマの言葉に、リンが目を細めた。
「何か問題が?」
「いえ、別に。ただ——」
エルマは言葉を選んだ。
「——仲がいいんだなって」
「……そう」
リンはそれだけ言って、背を向けた。ミオがついてくる。
エルマは二人の背中を見送りながら、独り言を呟いた。
「共依存って、こういうことなのかしら……」
2
医務室。
ドクが、ミオの腕に包帯を巻いていた。
「また来たのか。今週3回目だぞ」
「うん。でも、前より怪我、少なくなった」
「傷が浅くなってる。誰かが指示してくれてるんだな」
ミオが頷いた。
「リンがいるから。リンが全部教えてくれる」
「あの黒髪の子か」
ドクは包帯を結びながら、ミオの顔を見た。
「お前、いつか死ぬぞ。本当に」
「死なない。リンが死なせないって言った」
「……そうか」
ドクは何か言いたそうにしていた。でも、言わなかった。
「傷が浅くなってるのは、いいことなんだろうな。多分」
「多分?」
「いや、何でもない」
ミオが医務室を出る。リンが待っていた。扉の前で、腕を組んで。
「終わった?」
「うん。ドクが、傷が浅くなったって」
「そう。——次は怪我しないで」
「うん。リンの言う通りにする」
ミオがリンの手を取った。リンは振り払わなかった。
ドクは、窓からその姿を見ていた。
「相棒がいないと震えるのか。……それ、普通じゃないぞ」
誰にも聞こえない声で、呟いた。
3
ギルドの掲示板前。
カインが声をかけてきた。
「リン、お前の指揮なら深層だって楽勝だろ。うちに来ないか」
リンは振り返った。金髪の男。Bランクパーティのリーダー。
「お断りするわ」
「なんでだよ。お前の才能、もったいないぜ」
「私は、この子と組んでる」
リンがミオを示す。ミオはリンの後ろに隠れるようにして、カインを見ていた。
「その子、身体能力すげえな。うちで鍛えてやるよ」
「お断り」
「2人だけで? ……正気か?」
カインの声に、呆れが混じった。
「チームってのはな、誰か一人が欠けても回るようにするもんだ。お前らは逆だ。一人でも欠けたら終わる。そんなの危険すぎる」
「……」
リンは何も言わなかった。
「お前ら、依存しすぎだろ。離れた方がいい」
「大きなお世話よ」
「俺はお前らのことが心配で言ってんだ」
「——ありがとう。でも、余計なお世話」
リンはミオの手を取って、その場を離れた。
カインは、二人の背中を見送った。
「……まあ、俺に言われたくねえよな」
4
その日の夕方。
ヴェルナーに呼び出された。
「ミオのランクを上げる。EからDだ」
「……もうですか」
「成果が出てる。異論はないだろう」
ヴェルナーは書類を差し出した。
「お前らの報告書を見た。依頼完遂率100%。負傷率は激減。中層でこの成績は、なかなかない」
「……」
「結果が全てだ。過程は問わん」
リンは書類を受け取った。ミオのランクアップ通知。
「あと、お前の件だが」
「私?」
「事務職からの異動申請、通った。正式に現場復帰だ」
リンは目を見開いた。
「……本当ですか」
「嘘は言わん。——お前、もう事務仕事する気ないだろう」
「……ないです」
「だろうな」
ヴェルナーは、リンの顔を見た。
「あの2人、うまくいくかもしれん。……いかないかもしれん」
「どういう意味ですか」
「依存、という言葉を知っているか」
リンの目が、細くなった。
「……知ってます」
「知ってて、やってるんだな」
「——はい」
ヴェルナーは、何か言いたそうにしていた。でも、言わなかった。
「結果を出せ。それだけだ」
「……はい」
リンは執務室を出た。
廊下に出た瞬間、肩から力が抜けた。息を吐く。肺の奥まで空気が入っていく。
——依存。
わかってる。わかってて、やっている。
ミオが待っていた。廊下で、そわそわしながら。リンの姿を見た瞬間、表情が明るくなる。
「リン、何の話だった?」
「あなたのランクが上がった。EからD」
「ランクアップ!?」
ミオの顔がぱっと明るくなった。
「リンのおかげ!」
「私のおかげじゃないわ。あなたが頑張ったから」
「ミオが頑張れたの、リンがいたから」
ミオがリンの手を取った。
「ねえリン、ミオ、ちゃんとできてる?」
「……ええ。よくやってる」
「やった!」
ミオが跳ねる。リンの手を握ったまま。
「今日、お祝いしよう! パン食べたい!」
「……いいわよ」
リンは、少しだけ笑った。
——2人でやっと1人。
カインの言葉が、頭に残っている。
一人でも欠けたら終わる。
それは——その通りかもしれない。
でも、今は。
「行くわよ」
「うん!」
ミオがついてくる。リンの手を、離さないまま。
リンは、振り払わなかった。
*第04話 了*