情報を武器に変える技術
歴史の将軍に学ぶ方法論 #02
レポートはある。でも、勝てない。
月曜日の朝9時。会議室のスクリーンには、先週の売上データが映っている。
「競合A社の動向は?」「調査中です」「顧客満足度の推移は?」「来週までにまとめます」「じゃあ今日は現状確認だけで」
1時間の会議が終わる。何も決まらない。
翌週、同じ会議。同じ質問。同じ回答。そして、同じ結論——「引き続きデータを収集しましょう」。
3ヶ月後、競合に市場シェアを奪われた。
データはあった。分析ツールもあった。足りなかったのは「情報を武器に変える力」だった。
この力を、80年前に極限まで磨き上げた男がいる。
通信機に取り憑かれた将校
ハインツ・グデーリアン(1888-1954)。
グデーリアン聖地 | TAKAWASI →
電撃戦の創始者として名高い彼だが、実は戦車ではなく「通信」から軍歴をスタートさせた。
1914年、第一次世界大戦。グデーリアンは通信参謀として従軍した。そこで彼は、ある光景を目にする。
前線からの報告が司令部に届くまで、数時間かかる。その間に戦況は変わり、命令が届く頃には意味をなさない。伝令兵が走り、電話線が切れ、情報は霧の中で消えていく。
「情報が届いた時には、もう遅い」
この経験が、グデーリアンを変えた。
1920年代、彼は狂ったように無線通信の研究に没頭した。当時の軍では「通信」は地味な後方支援だった。出世を望む士官が選ぶ分野ではない。周囲は不思議がった。
グデーリアンには見えていたものがあった。
「戦車に無線機を載せれば、司令官は戦場全体を手のひらで動かせる」
上層部に提案した。返答は冷淡だった。
「コストがかかりすぎる」
「戦車は鉄と火力だ。通信など余興だ」
グデーリアンは諦めなかった。彼はこう言い返した。
「情報を持っている者が勝つのではありません。情報で動ける者が勝つのです」
1940年5月15日、セダン
グデーリアンの情報戦が、歴史を変えた日がある。
フランス戦役、5月15日。グデーリアンの第19装甲軍団は全車両に無線機を装備していた。戦車長は常に上位指揮官と通話でき、隣の部隊とも連携できた。
一方、フランス軍の戦車には無線機がなかった。指揮官が命令を伝えるには、車両を止めて外に出て、手旗信号を振るしかなかった。
午前6時、グデーリアンは最前線の装甲指揮車にいた。
無線が入る。「前方2kmに敵対戦車砲陣地、右翼迂回を推奨」
グデーリアンは即座に応答した。「第1大隊、右翼から回り込め。第2大隊は正面で牽制。5分後に同時攻撃」
敵が気づいた時には、すでに包囲されていた。
この日の進撃距離、60km。
フランス参謀本部は報告を「通信エラー」だと判断した。1日で60km進む軍隊など、存在するはずがなかったからだ。
同じ戦車。同じ兵士。違ったのは、情報の使い方だけだった。
情報を武器に変える行動
グデーリアンから学べる原則は明確だ。
一、情報は鮮度が命。
「24時間前のデータは歴史だ。武器ではない」——グデーリアンはそう言った。週次レポートを見て判断する会議は、すでに負けている。
二、情報は行動に直結させる。
分析して満足するな。グデーリアンの無線は「報告」ではなく「命令」のためにあった。情報を受け取った5分後には、部隊が動いていた。
三、情報システムへの投資を惜しむな。
「コストがかかる」という上層部に、グデーリアンは勝利で証明した。情報基盤への投資は、後から10倍になって返ってくる。
今夜からできること
よければ今夜、一つだけ試してみてほしい。
あなたが受け取る定例レポート。次に届いた時、「これを見て5分以内に何か決められるか?」と自問してほしい。
決められないなら、そのレポートは武器ではなく、ファイルだ。
グデーリアンは言った。
「情報とは、知ることではない。他者より先に動けることだ」
前進あるのみ。