部下の心を掴む技術 ── 歴史の将軍に学ぶ方法論


言われたことしかやらない

金曜日の夕方18時。1on1ミーティングが終わった。

「何か困っていることはありますか」「特にないです」「新しいことにチャレンジしたいことは?」「今の業務で手一杯です」「じゃあ、また来週」

部下は時間になったら帰る。言われたことはやる。でも、それ以上は何もしない。

命令は聞いている。でも、ついてきてはいない。

さらに1ヶ月後、その部下は辞めた。理由は「やりがいを感じられなかったから」。

何が足りなかったのか。給料か? 仕事内容か?

違う。足りなかったのは、「この人のためなら」と思わせる何かだった。

この「何か」を持っていた男がいる。


兵士に「ついていきたい」と言わせた男

ガイウス・ユリウス・カエサル(紀元前100-44年)。

ローマ帝国の基礎を築いた政治家・軍人であり、史上最も有名な指導者の一人だ。

カエサルの軍団は、異常なほど強かった。しかしそれは装備や訓練だけの問題ではなかった。

兵士たちがカエサルを愛していた。

なぜか? カエサルには野心があった。ローマの頂点に立つという野心。そのためには、兵士の心が必要だった。

彼は知っていた。金で買った忠誠は、より高い金で売られる。しかし心で繋がった忠誠は、金では買えない。

だから彼は、兵士の心を掴むことに全力を注いだ。


カエサルの掌握術

一、苦楽を共にした。

カエサルは将軍でありながら、兵士と同じ食事を取った。ガリア戦役では、真冬の行軍で兵士の先頭に立った。

ある夜、極寒の野営地で古参の百人隊長が言った。

「将軍、この天幕は隙間風が入ります。私の毛布をお使いください」

カエサルは首を振った。

「君たちが寒いなら、私も寒い。それでいい」

翌朝、この話は軍団全体に広まった。兵士たちは「将軍は俺たちと同じ苦しみを味わっている」と語り合った。

二、兵士の名前を覚えた。

カエサルは驚異的な記憶力で、数千人の兵士の名前と顔を覚えていた。戦場で個々の兵士に名前で呼びかけ、過去の功績を言及した。

ある戦闘で、一人の兵士が敵陣に突入した。カエサルは叫んだ。

「マルクス、お前は3年前のアレシアでも最初に壁を越えたな!」

その兵士は生涯、この瞬間を語り続けた。「将軍が自分を覚えている」——この感動は、金では買えない。

三、失敗を許した。

カエサルは部下の失敗に寛容だった。ガリア戦役で敗走した部隊の指揮官を、処刑せずにこう言った。

「次に勝てばいい。失敗した者を殺せば、誰も挑戦しなくなる」

この言葉は軍団に広まった。「この人の下なら、失敗しても終わりではない」——この安心感が、部下の挑戦を促した。


紀元前49年1月10日、ルビコン川

カエサルの求心力が試された瞬間がある。

ルビコン川。この川を武装兵と共に渡れば、国家反逆罪。処刑される可能性がある。家族も巻き込まれるかもしれない。

カエサルは兵士たちに言った。

「この川を渡れば、もう戻れない。私についてくる必要はない。帰りたい者は帰れ」

沈黙が流れた。そして、一人の百人隊長が進み出た。

「将軍、あなたが行くところなら、どこへでもお供します」

誰一人、離脱しなかった。

これが「部下の心を掴む」ということだ。命令ではない。彼らの意志だ。

今週からできること

よければ今週、一つだけ試してみてほしい。

次の1on1で、部下の「名前」だけでなく、「最近取り組んでいること」を具体的に言及してみてほしい。

「先週言っていたあの提案書、その後どうなりました?」

カエサルは言った。

「人は、覚えてもらえることで動く。命令で動くのではない」

部下の名前を、仕事を、覚えよう。そこから始まる。

前進あるのみ。


歴史の将軍に学ぶ方法論シリーズ #08
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