決断の速度を上げる技術 ── 歴史の将軍に学ぶ方法論


あの沈黙を、まだ覚えている

会議室に6人。新規事業の企画書が目の前にある。

「もう少しデータを集めてから」「リスクを洗い出してから」「他社の動向を見てから」

誰も決めない。誰も手を挙げない。3時間の会議は「次回までに再検討」で終わった。

2週間後、競合がほぼ同じサービスをリリースした。

あの時、決めていれば。

この後悔を、何度味わえば学ぶのだろう。

遅い決断は、間違った決断より悪い。なぜなら、間違いは修正できるが、遅れは取り戻せないからだ。

では、どうすれば決断を速くできるのか?

この問いに、80年前、自らの人生を賭けて答えを出した男がいる。


「止まるな。進め。」

ハインツ・グデーリアン(1888-1954)。

ドイツの軍人で、第二次世界大戦において「電撃戦」という革命的な戦術を確立した人物だ。

グデーリアン聖地 | TAKAWASI →

彼には癖があった。

常に最前線にいた。

当時の将軍は後方の司令部で地図を眺めながら指揮を執るのが普通だった。安全な場所で報告を待ち、慎重に判断を下す。それが「将軍らしい」振る舞いだった。

グデーリアンは違った。装甲指揮車に乗り込み、戦車隊の先頭を走った。砲弾が飛び交う中で、自分の目で戦況を確認した。

部下が「危険すぎます」と止めると、彼はこう答えた。

「前線にいなければ、正しい判断はできない。報告を待っている間に、戦況は変わる」

彼の口癖は単純だった。

「止まるな。進め。」

1940年5月13日、ムーズ川

グデーリアンの決断速度が歴史を変えた瞬間がある。

1940年5月10日、ドイツ軍はフランスに侵攻を開始。グデーリアン率いる第19装甲軍団は、誰もが「戦車は通れない」と思ったアルデンヌの森を突破し、ムーズ川を目指した。

5月12日夜、川の対岸が見えた。しかし上層部からの命令は「砲兵支援が整うまで待て」。

グデーリアンは部下を集めた。

「敵はまだ態勢を整えていない。今なら渡れる。明日になれば、防衛線ができる」

参謀が反論した。「しかし、命令では——」

グデーリアンは遮った。

「命令を待っていたら、チャンスは消える。責任は俺が取る」

5月13日15時、航空支援のみで渡河を強行。

フランス軍は完全に虚を突かれた。彼らがグデーリアンの位置を把握した時には、戦車隊はすでに30km先にいた。

5月20日、ドイツ軍は英仏海峡に到達。フランスは事実上崩壊した。

わずか10日。ヨーロッパ最強の陸軍国家が、10日で敗北した。


なぜグデーリアンは速く決断できたのか

ここで立ち止まって考えてみてほしい。

グデーリアンはなぜ、あの瞬間に「渡河する」と決断できたのか。

「度胸があったから」? 違う。 「情報が十分だったから」? 違う。砲兵支援もなかった。 「速度を信じていたから」? それも表層だ。

グデーリアンは「この戦争の勝利条件」を見抜いていた。

フランス軍を包囲殲滅すること。そのために英仏海峡に到達すること。それが勝利条件だと最初から分かっていた。

だから目の前のムーズ川が「渡るべき川」なのか「待つべき川」なのか、迷わなかった。勝利条件から逆算すれば、答えは一つしかない。

核心を把握しているから、速度が出せる。

決断が遅い人間は、臆病なのではない。「何が勝利条件か」を見抜いていないから、目の前の選択肢で迷うのだ。

グデーリアンは勝利条件を見抜いていた。だから電撃戦ができた。


電撃戦最強。グデーリアン最強。

結局、これに尽きる。

勝利条件を見抜け。核心を把握しろ。そうすれば決断は速くなる。

よければ今夜、自分に問いかけてみてほしい。「俺の勝利条件は何だ?」と。

それが見えた瞬間、決断は速くなる。

前進あるのみ。


歴史の将軍に学ぶ方法論シリーズ #01
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